大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 昭和56年(ワ)321号 判決

原告(反訴被告)

興和運輸有限会社

被告(反訴原告)

明穂輸送株式会社

主文

一  被告は、原告に対し金一三八万八〇〇〇円および内金一二六万八〇〇〇円については昭和五六年五月一七日から、内金一二万円については昭和五八年五月三一日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告は、反訴原告に対し金一五万一六二七円およびこれにつき昭和五六年三月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告および反訴原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は本訴、反訴を通じてこれを五分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金一九六万七六八〇円および内金一七九万二六八〇円については昭和五六年五月一七日から、内金一七万五〇〇〇円については昭和五八年五月三一日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  反訴被告は、反訴原告に対し金一一七万七五四五円およびこれにつき昭和五六年三月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求原因

1  交通事故の発生

訴外桶重範は、被告に自動車運転手として使用されているものであるが、昭和五六年三月二日午前七時ころ、被告保有の大型貨物自動車(富一一か四四五一号)を運転して、岡山市富浜町四番四号先国道上を進行中、信号待ちのため停車中であつた原告の被用者上原進運転にかかる原告保有の普通貨物自動車(岡一一あ四三四三号)に追突した。

2  被告の責任原因

本件事故は、訴外桶重範運転手の進路前方注視義務違反等の過失によるものであるところ、被告は、右桶の使用者であり、しかも、桶は被告の事業の執行中本件事故を惹起したものであるから、被告は民法七一五条により本件事故による原告の損害を賠償すべき責任がある。

3  原告の損害

(一) 金一五二万円 原告保有車両の修理費

(二) 金二〇万七六八〇円 休車補償

算定根拠

(1) 一日当りの営業収入 金二万五〇〇〇円

(2) 一日当りの諸経費 金一万四六一六円

(燃料費が三七六〇円、人件費が六〇〇〇円、修理損耗費が二〇〇〇円、償却費が二八五六円)

(3) 一日当りの純益 金一万〇三八四円

(4) 修理日数二〇日間×一万〇三八四円=二〇万七六八〇円

(三) 金六万五〇〇〇円 原告保有車両の牽引費用

(四) 金一七万五〇〇〇円 弁護士費用

右合計 一九六万七六八〇円

4  本訴請求

よつて、原告は、被告に対し、金一九六万七六八〇円および内金一七九万二六八〇円については、被告へ本件訴状送達の翌日たる昭和五六年五月一七日から、内金一七万五〇〇〇円については本件判決言渡日の翌日から、各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求む。

二  本訴請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は、「信号待ちのため停車中であつた」「追突した」との点を除いて認める。

2  同2については、被告が桶運転手の使用者であること

本件事故当時、右桶が被告の事業の執行中であつたことは認め、その余の事実は否認する。

本件事故は、原告の被用者である訴外上原進の過失によつて発生したものであり、被告の被用者たる訴外桶重範の過失によるものではない。

3  同3(損害)の事実は否認する。

三  抗弁

1  過失相殺

原告の被用者である訴外上原進は、本件事故直前に追突事故を発生させながら、道路交通法七二条に違反して、右事故後、後続車のための道路における危険防止に必要な措置を講じなかつた。

2  相殺

(一) 本件事故により、被告も損害を蒙つたが、右事故は、原告の被用者たる訴外上原進が、道路交通法七二条所定の措置を怠つた過失により発生したもので、しかも同人は原告の事業の執行中であつたから、原告は、民法七一五条により被告に対し、さきの損害を賠償する義務がある。

(二) 被告が蒙つた本件事故による損害はつぎのとおり。

(1) 金一三万円 原、被告両被害車両の牽引費

(2) 金八万円 被告被害車両の積荷を他車へ積替え、当初の配送先に納入し、その後右被害車両を積込み岡山から富山県高岡市まで搬送に要した費用

(3) 金三万五〇〇〇円 被告被害車両を前記高岡まで搬送のためトラツクへの積込み費用

(4) 金四三万九六三五円 被告被害車両の修理費

(5) 金二一万八五〇〇円 右被害車両のキヤビン、ラジエーター取替費

(6) 金二七万四四一〇円 休車補償

算定根拠

イ 車両償却、自動車税、自動車取得税、重量税の一日当りの合計額七二八九円

ロ 対人保険、自賠責保険の保険料一日当り六四三円

ハ 車検費一日当り一二一五円

右合計金九一四七円

金九一四七円×三〇日(休車期間)=二七万四四一〇円

以上合計 一一七万七五四五円

(三) 被告は、昭和五六年八月二七日の本件口頭弁論期日において、右(二)の損害賠償債権をもつて、原告の損害賠償債権と、その対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

すべて否認する。

五  反訴請求原因

1  交通事故の発生

本訴請求原因1の日時、場所で、反訴被告保有の普通貨物自動車(岡一一あ四三四三号)を運転していた訴外上原進が、右自動車を駐車するにあたり、道路交通法所定の措置を怠つていたため、反訴原告所有の大型貨物自動車(訴外桶重範運転、富一一か四四五一号)が衝突した。

2  反訴被告の責任原因

本訴請求の抗弁2相殺(一)に記載のとおり。訴外上原進の過失内容を詳述すると、本件事故発生前に、右上原運転の反訴被告保有車両が、訴外株式会社高工社所有車両(二トン積トラツク、大一一ち三九〇二、運転手今西一雄)に、三車線道路の最も中央分離帯沿いの車線で追突事故をおこし、右両車の運転手が各降車して示談交渉をしていた。その際、上原運転手は、道路交通法七二条所定の措置を講じなかつた。即ち、

(一) 事故車を路端に寄せずに、中央分離帯沿いの車線内に放置したまま降車し、先行車の運転手と交渉に当つていた。

(二) 上原運転手は、降車する時、降車後、法令所定の停車措置をいずれも怠つた。

(三) さらには、同人が前記七二条に従がい、警察への通報がなされておれば、警察の指示による措置が期待されるが、右通報もしていない。

3  反訴原告の損害

本訴請求の抗弁2相殺(二)掲記のとおり。

4  請求

よつて、反訴原告は、反訴被告に対し金一一七万七五四五円およびこれにつき本件不法行為の翌日以降支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求む。

六  反訴請求原因に対する認否

1の事実は、事故の態様以外は認める。事故発生の態様は、衝突ではなく、訴外桶重範の一方的過失による追突事故である。

2については、反訴被告が訴外上原進の使用者であること、本件事故当時、右上原が反訴被告の事業の執行中であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3(反訴原告の本件事故による損害)の事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

(本訴請求について)

一  請求原因1の事実は、信号待ちのため停車中の原告保有車両に追突したとの点を除いて、当事者間に争いがない。

同2の事実中、被告が桶運転手の使用者であること、同運転手が本件事故当時被告の事業の執行中であつたことは当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故発生が右桶運転手の過失によるものか否かについて検討する。

いずれも成立に争いのない甲第五号証の三ないし八、同号証の一一、証人上原進、同桶重範、同今西一雄の各証言を総合すると、つぎの事実を認定できる。

1  本件事故発生現場は、国道二号線バイパス上り線(片側三車線)上で、事故当時、現場付近は霧がかかつて前方の見とおしは八〇メートルくらいしかきかず、アスフアルト路面は凍結してスリツプしやすい状態であつた。

2  桶運転手は、被告車両(富一一か四四五一号)を運転し、時速四、五〇キロメートルで本件事故現場付近を西進中、自車前方約六〇メートルの地点に原告車両を認めたものの、同車が走行中か停車しているものか判然としなかつたので、なお同一速度で進行し、約二〇メートルに接近して、はじめて原告車が停止していることに気づき、急制動の措置をとつたが及ばず、同車後部に衝突し、さらにその衝撃で同車を押し出し、前方に停車していた訴外今西一雄運転車両に追突させた。

3  上原進運転の右原告車は、本件事故発生の直前、交通渋滞のため停車中の訴外今西一雄運転の普通貨物自動車(大一一ち三九〇二)に追突(以下第一事故という)したが、両車にとりたてていう程の物損もなかつたので、両車の運転手である右上原と今西が車外で二分ばかり話合つた後、上原運転手が自車に戻り、エンジンをかけ待機中、本件事故が発生したものである。

右の事実によれば、自動車運転者である桶としては、進路前方を注視して、先行車の動向に注意をはらいつつ進行するは勿論、路面の状態を考慮し、適宜減速して急激なブレーキ操作を避けるべき注意義務があるのに、これを怠つた過失により本件事故を発生させたものと認められる。

被告は、本件事故は、第一事故発生後に、訴外上原進が、道路交通法七二条所定の措置をとらなかつたために発生したものであると主張するが、右上原において右の措置をとらなかつたことを考慮しても、桶の前記過失およびその過失と本件事故発生との因果関係は否定できない。

そうすると、被告は、民法七一五条一項により、原告が本件事故で蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

三  本件事故による原告の損害

1  証人上原進、同江本正康、同今西一雄の各証言、原告代表者尋問の結果、証人江本正康の証言により成立を認め得る甲第二号証、証人上原進の証言と原告代表者尋問の結果から、本件事故発生の翌日に原告代表者が撮影した原告被害車両の写真と認め得る甲第三号証の一ないし四を総合すると、上原運転の原告車は、本件事故により前部大破、キヤビン左傾、シヤーシは右に下り、フレームがゆがみ、車体がねじれた状態となり、運転台(キヤブ)、荷台(ボデイ)の一部、ラジエター、ラジエターグリル、フロントバンパー等の取替、その他部分の修正等で、金一五二万円相当の修理費を要する車両破損の損害を蒙つたが、原告は、「右修理をしても、シヤーシにねじれを生じていることから、再度かような状態を現出する虞れがある」旨の修理業者の意見を容れ、右修理を断念し、事故から約半年後に、右被害車両と年式、使用度、積載量、材質等もほゞ同等の中古車を金一六〇万円で、右自動車修理、販売業者の佐野自動車株式会社(岡山市福浜町所在)から購入した事実が認められる。そうすると、右代車購入費を下廻る前記修理費用(金一五二万円)の限度においては、その損害は本件事故と相当因果関係のあるものといえる。

2  次に、原告被害車両を修理する場合の修理期間(なお、修理は可能でも、修理費が破損前の車両価額を上廻る場合の代車購入に必要な期間)、休車一日当りの当該被害車両が得ていた純益額については、原告代表者尋問の結果以外には、なんらの証拠もないところ、右代表者尋問の結果だけでは、にわかに原告主張の如き利益があつたものとは認めがたい。よつて、休車損害はこれを認めるに由なきものというほかない。

3  証人根木三佐男、同江本正康の各証言、原告代表者尋問の結果とこれにより成立を認める甲第四号証によると、原告は、自己保有の被害車両を本件事故現場から岡山市福浜所在の佐野自動車株式会社へ修理のため牽引した費用として金六万五〇〇〇円を有限会社佐藤運送に支払つたことが認められる。

四  抗弁について

1  過失相殺

証人上原進、同桶重範の各証言によると、本件事故の発生については、原告の被用者である上原進にも、第一事故発生後、ストツプランプを点燈しないまま停車していたため、後続車両の運転手桶をして、原告車が停車しているのに気づくのを遅らしめた過失が認められるところ、前記認定の訴外桶重範(被告被用者)の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の二割を減ずるのが相当と認められる。

2  相殺(民法五〇五条)

民法五〇九条の趣旨は、不法行為の被害者に現実の弁済によつて損害の填補を受けさせること等にあるから、およそ不法行為による損害賠償債務を負担している者は、被害者に対する不法行為債権を有している場合であつても、被害者に対しその債権をもつて対当額につき相殺により右債務を免れることは許されないものと解するのが、相当である。したがつて、本件のように双方の被用者の過失(もつとも原告被用者の過失の有無についての判断を経ていないが、仮にこれが認められるとしても)に基因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、民法五〇九条の規定により相殺が許されないというべきである(最高裁判所判例集第二八巻第五号六六六頁、判例時報九五四号二九頁参照)。

五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して、本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金一二万円とするのが相当であると認められる。

(反訴請求について)

一  反訴請求原因1のうち交通事故の態様以外の事実、同2のうち反訴被告(原告)が訴外上原進の使用者であること、本件事故当時、右上原が反訴被告の事業の執行中であつたことは、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故が右上原進の過失により発生したものかどうかにつき検討する。

本訴請求二項、同四項1において認定した事実に鑑みると、右上原において、第一事故後、後続進行車両に対して、自己運転車両が停車中であることを示す措置を怠つたことが、本件事故を惹起する一因となつたことは否定しがたく、右の過失は民法七二二条二項所定の過失にとどまらず、同法七〇九条の不法行為の内容をなす過失といわざるを得ない。

そうすると、反訴被告は、民法七一五条一項により、反訴原告(被告)が本件事故により蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

三  本件事故による反訴原告の損害

1  成立に争いのない甲第五号証の三、証人根本三佐男の証言とこれにより成立を認め得る乙第一号証によると、本件事故で桶重範運転の被告車は前部を大破し走行不能となつたため、事故現場から岡山三菱ふそうまでの牽引を有限会社佐藤運送に依頼し、反訴原告において、右牽引費用として金六万五〇〇〇円を右佐藤運送へ支払つた事実を認定できるが、原告被害車両の牽引費用(六万五〇〇〇円)を支払つたとの事実を認め得る証拠はない。

2  証人根木三佐男の証言とこれにより成立を認める乙第二、第三号証によると、本件事故のため、被告車の積荷を予定どおり運送できなくなつたため、反訴原告保有の他の車両に積替えて当初の配送先へ納入後、同車(番号三〇六四)が被告車を積込んで、反訴原告の営業所所在地である富山県高岡市内まで搬送した事実は認められるものの、かと言つて、右搬送に要した費用とされる金八万円は、同証人の証言によるも、「当初の予定どおり、大阪から大阪商工の荷を積んで帰つた場合には、それだけの収入があつた」趣旨と窺われるにとどまり、具体的な注文内容や取得運賃を認め得ないので、結局これについては証拠がないことに帰する。

3  前記証言とこれにより成立を認める乙第四号証の一、二によれば、被告車を岡山市から前記高岡市内まで搬送のため、トラツクに積込む際利用したレツカー車使用料三万五〇〇〇円を反訴原告において支払つた事実が認められる。

4  証人根木三佐男、同石田稔の各証言とこれらにより成立を認める乙第五号証によると、反訴原告は、訴外石田自動車工業株式会社に被告車の修理を依頼し、右修理費用四三万九六三五円を支払つた事実を認定できる。

5  証人根木三佐男の証言とこれにより成立を認める乙第六号証によると、反訴原告は、被告車の修理を前記石田自動車工業へ依頼するにあたり、同車両の破損したキヤビンおよびラジエター取替えのため、これら(いずれも中古品)を訴外メイホ産業株式会社から調達購入のうえ、石田自動車工業に支給したが、右購入費用として金二一万八五〇〇円を要したことが認められる。

6  反訴原告請求にかかる休車補償二七万四四一〇円については、(一)休車期間が三〇日間であるとの事実も証人根木三佐男の証言のほかには何らの証拠もなく、(二)自動車税、自動車取得税、重量税、対人保険、自賠責保険の保険料、車検費についても、その正確な額を認めるに足る証拠すらない(乙第七号証は、証人根木三佐男の証言により成立は認め得ても、容易に信用するに足るものとはならない)。

従つて、結局証拠がないものとして、右事実を認定するに由ない。

四  過失相殺(職権)

本訴請求二項、同四項1、反訴請求二項において、各認定したところによると、本件事故の発生については、反訴被告の過失に比し、反訴原告により大なる過失が認められるのであつて、さきに認定の反訴被告の過失の態様等諸般の事情を考えあわせると、過失相殺として反訴原告の損害の八割を減ずるのが相当である。

(結論)

よつて、原告は、被告に対し金一三八万八〇〇〇円およびうち弁護士費用を除く金一二六万八〇〇〇円につき被告へ本件訴状が送達された日の翌日であることが記録上明白な昭和五六年五月一七日から、うち金一二万円については本判決言渡の翌日から、各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、その請求は正当であるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却する。

次に、反訴請求については、反訴原告は、反訴被告に対し金一五万一六二七円およびこれにつき本件不法行為の翌日である昭和五六年三月三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるから認容することとし、その余の請求は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例